耐震構造は家の強度を上げる事により地震による倒壊を回避しますが、
被災するごとにダメージが蓄積して強度が落ちていきます。
耐震性能が建築基準法を満たしていても連続する被災には安心できないのです。
現在の耐震基準では震度六弱の大地震で倒壊しないことが条件とされており、
建物が損傷をどれだけ受けても倒壊さえしなければ人命を守れるという概念です。
倒壊を免れたという規模の被災を受けた場合には、窓やドアなどの建具が
開かなくなるほどの損傷を受けてしまいます。
こうなった場合は建物の構造部分の接合部分が折れたり抜けたり、
また接合金物が折れたり引きちぎられているのです。
構造部分がこうなってしまうと、その後はそのまま安心して暮らせません。
建物への損傷が一定限度を超えるとその後の生活に支障が出るだけでなく
大規模改修工事や建て替えが必要となり大きな財産を失うことになります。
地震保険に加入していても支払われるのは損害の一部だけです。
では耐震性能を現在の建築基準法レベルよりさらに上げていけば
いいのかというとそうでもありません。
耐震性を向上させるためには変形に抵抗する部材を増やします。
具体的には筋交いや構造合板といわれる厚い合板を壁に追加します。
構造的にガチガチに硬くするわけです。
建物の変形を抑え込むので建物自体の変形は小さくなるものの
地震のエネルギーをダイレクトに受けることになるのです。
建物が地震力をガッチリ受け止めるので、より強い加速度で揺れることになります。
この揺さぶりが共振を起こすと木造の場合は接合部分が破壊されてしまうのです。
建物内部では冷蔵庫がドーンと倒れるようなことが起きると予想されます。
つまり耐震性を大きくするとを建物全体が受け止める力も大きくなるので
構造部分の接合部と建物内部へのダメージが大きくなるのです。
耐震性を上げるために必要以上にガチガチにするのはリスクが大きいことなのです。
これは2009年の実物大住宅の模擬地震実験でも確認されました。
耐震性を追加した住宅の性能を実証する実験で逆の結果が出てしまいました。

耐震性が通常の住宅と耐震補強された住宅に
同時に地震力を加える実験で、耐震補強された
長期優良住宅のほうだけ倒壊してしまったのです。
この実験は防災科学技術研究所と建築推進協議会が
共同で実物大の住宅で行った実験です。
「耐震実験 予想外」で検索すると動画もすぐに見つかります。
この結果は国と建築業界にとって「不都合な真実」となってしまいました。
これに対し、主催者の一者である国土交通省の結論は、
倒壊していない住宅も実質的には倒壊したということにして
「今回の試験体は2棟とも倒壊したと判断する」
「現行の構造設計法の想定通りである」と記者会見では発言しました。
両方とも倒壊とみなして想定通り?
長期優良住宅に追加された耐震性は意味がないのが想定通り?
長期優良住宅の耐震性をアピールするための実験だったのでは?
法律を作ってしまった以上、長期優良を認定した住宅のほうだけが
倒壊してしまったという事実は受け入れることができないようです。
この結果をそのまま受け入れると長期優良住宅の普及の促進に関する法律は
再検討せざるを得なくなるし、現行の建築基準法も見直す姿勢を見せないと
不作為犯罪を追及されることになるのかもしれません。
倒壊した住宅は長期優良住宅の普及の促進に関する法律(2009年6月施行)に
認定される耐震性を備えた建物で、この建物の耐震性能については、
極めて稀に発生する地震に対し、継続利用のための改修の容易化を図るため、
損傷のレベルの低減を図ることが認定条件となっています。
それが実験では倒壊です。
このようなこともあり、現行の耐震性だけでは倒壊を免れても
倒壊同然の損傷を受けることが実験でも再現され、
さらに耐震性だけの強化は地震に対する備えにはなり得ないと感じていました。
「揺れをある程度は許容しながら大きく減衰させて住宅を守る」
この設計を取り入れて制振構造にすることが既存の住宅にできる
唯一の方法であると確信しました。
これが制振ダンパーを設置しようと考えた動機です。
日本という地震多発国に自宅を建てて暮らしている以上は
倒壊を免れられるだけで安心している場合ではないと思ったのです。
倒壊を免れても自宅の再建築の負担は想定外なはずです。
地震保険は全壊しないと全額出ない上、全壊しても再建できるほどは出ません。
大地震による損傷で暮らせなくなってしまうことは大きなダメージであり、
ちょっとした追加工事で効果的な対策が取れるのであれば
建築基準法で義務付けてでも普及させるべきだと考えます。
これが本来国が行うべき国民の生命と財産を守るということではないかと考えます。